【ネタ】消えた靴下の怪談
大学に入学するにあたって、アパートを借りることになった。
国立ではあるものの、家から通える範囲の大学はことごとく滑っていたのでどうしても下宿するしか無かったのだ。選んだのは家賃20000円の安アパート。洗濯機は部屋の外に置かれ、一階でベランダは無く、窓は道路に面しているため通行人から部屋が丸見えだし、あと窓も割られた。
隣人の事はよく分からない。ただ、恐ろしく太っていること、部屋のカーテンが1度も開かれないこと、ドアを開けるたびに部屋の中からゴミが雪崩のようにこぼれ出すこと、SKE48のTシャツを着ていること、ゴキブリを飼っていて時々俺の部屋に派遣してくることだけは分かっている。結構分かってた。
もちろん、安く済ませようとしたのは家賃だけでなく、家具類もすべて安いものを買い集めた。親に負担はかけさせまいと、家具家電はとにかく安価なもので揃えることにした。こうして大学生活をスタートさせた。
一人暮らしをしていると不可解な現象に出会うことも多い。いくらなんでも私の部屋は安すぎたし、過去に何があってもおかしくない。
なんと言っても謎なのが、靴下の片方だけがよく紛失する事だ。
どのタイミングで紛失したのかは分からない。ただ、風呂に入る時は洗濯カゴに入れるし、洗濯物をたたんでいる時には余った靴下の片方だけがぽつねんと残されているという状況が何度か続いた。
言った通り、私の部屋はベランダがなく道路に面しているため、洗濯物には通行人誰でも手が届く。場合によっては盗難という可能性も考える必要がある。とはいえ学生街の、男物の洗濯物を盗むなんて一体どんなドスケベ巨乳やり手黒タイツOLだろうかと考えると、ワクワクはした。したけど、怖かった。
しかも、そんなことは1度2度の話ではなかった。既に2年住んでるが、ほとんどの靴下が片方だけになった。買い足したものも1ヶ月も経たないうちに片方だけになってしまった。その頃になるともうなかば諦めて、左右で違う靴下を履くことも多くなった。
もっと言えば自分のものでは無いTシャツが洗濯物に混じっている事もあった。失うものがあれば得るものもある。でもこれは違うだろ。
このような珍事が続いたある日、洗濯機が壊れた。ドラムが回らなくなってしまった。
原因は色々考えられるが、洗濯物をぎゅうぎゅうに押し詰めて使用したせいだと思う。普段から洗濯物をする時間を作れなくて、頻繁にぎゅうぎゅう洗濯を行っていた。まあ、安物の洗濯機だし壊れる時には壊れるか。
ちょうど年末に実家に帰省するタイミングだったので、ドラムが回らずただ水に浸っただけの洗濯物を部屋干しして実家に帰ることにした。
翌日、父親を連れて下宿アパートに戻ってきた。洗濯機が壊れたという話をしたら俺に見せてみろと言われ、片道2時間を2日間の間に1.5往復する事になった。
「こういうのはモーターが原因なんだ。俺にはわかるんだ」とばかりに洗濯機修理に取り掛かった。水道から外してコンセントを抜き、洗濯機をひっくり返した。
そのとき写真がこれである
モーターに引っかかってた洗濯物が出てくる出てくる。
靴下どころの騒ぎじゃなかったです。いつの間にか消えていたTシャツやタオルなど、ありとあらゆる洗濯物がどっちゃりと出てきました。
どうやら洗濯機を動かすときに詰め込みすぎた為、遠心力でドラムと筐体の間の隙間に入ってしまったらしいです。それが下まで落ちて、モーターに引っかかってたと。なんじゃそりゃ。
かくしてモーターが動くようになった洗濯機で、出てきた洗濯物を洗ったのです。ひどいものだと1年ぶりに顔を合わせたTシャツもありました。
でも未だに疑問なんだけど、
自分のものでは無いTシャツが洗濯物に混じっている事もあった。
これは何だったの?