鮮やか土色

アニおと!!見聞録~アニメと音楽の個人ブログ~

アニメと音楽に関する個人ブログです。アニメやAV機器のレビューをします。

土色鮮やか

画像の説明
画像の説明
画像の説明
画像の説明
画像の説明
画像の説明
画像の説明
画像の説明
画像の説明

私が惚れた森見登美彦の小説観を、新刊「熱帯」から考えてみる


Kindleを購入してから小説を読む機会が多くなった。とりわけ、私はかねてより森見登美彦という作家の小説に首ったけになっている。

 

彼の有名な作品で言えば「四畳半神話大系」「夜は短し歩けよ乙女」「有頂天家族」などなど、いずれもアニメ化して高い評価を得ている作品だ。

 

私なりにどういう部分に惹かれたのか自分を分析してみたのだけれど、とりあえず一番わかり易い事柄で言えば単純に読みやすいことかな。

氏の小説は時には語り口調、モノローグっぽかったりもするし古めかしい言葉を多用している場合もある。いわゆる地の文にキャラクターがあるというか。

 

読んでいると登場する人物(あるいは作者自身)がとても身近に感じるようなよみやすさがある。それはどんなに奇怪な話でも、切なかったり笑えたりする場合でも等身大の人物像があり、一読者として勝手ながらシンパシーを感じちゃっている。

 

ところで、私が現在読み進めているのは「熱帯」という小説だ

森見先生がそれこそAmazon上のサービスで連載していた(らしい)連載をついに完成にこぎつけたみたいなことで、つい先月の11月に出版された本だ。

 

ある日森見氏が出会った不思議な小説を巡った不思議な話。こういうのをジャンルで分けるっていうのはとても無粋なような気がするので不思議な話とだけ言っておく。

熱帯を数十年間探し続けた森見氏はある会合で同じくその小説の謎にとらわれている白石さんという女性に出会う。白石さんは、自分とその小説にまつわる不思議な話を語り、その中で[続きは購入して読んでください]

 

 「熱帯」では度々「千一夜物語」について語られる。いわゆるアラビアンナイトというやつだ。

日ごとに国の女を一人ずつ結婚しては殺害するという王の行動に異を唱えた大臣の娘、シャハラザードは自ら王のもとへ向かい、殺される前に物語を語るとその物語のあまりの面白さに王は夢中になり、死刑の執行を1日、1日と遅らせるうちに千一夜の間に壮大な物語が紡がれた…。その物語をまとめたものが「千一夜物語」である。

 

シャハラザードが語った物語の中で更に物語を語る人物が登場し、その物語の中でも更に…といったマトリョーシカのような作品群となっているのが「千一夜物語」の面白いところだが、気がつくと熱帯でも同じような手法が取られている。

 

最初は森見氏自身が語り手となっているのだが、次章では森見氏が会合で出会った白石さん、更に次章では白石さんが出会った池内氏からの手紙…。

読みやすさに惹かれ没頭しているうちに、気づかないうちにまんまと術中にハマってしまっていた。私はなんども作中で「千一夜物語」の話題が出ているのにもかかわらず、3章にしてやっとこの仕組に気づいた。物語の中で物語が語られている…!!

まあ私はアホチンなので仕方がない。

 

「熱帯」の面白さをこれ以上あれこれ言うのも「語るに落ちる」というやつだ(誤用)

そんなことよりも、熱帯を読み進めていてこんな話を思い出した。

 

それは、運良く中村佑介という方のサイン会にでかけた時の話だ。森見氏の小説でも表紙などを担当している他、非常に他ジャンルに活躍しているイラストレーターで、サインを書いていただいている間にちょっとした話題を振ってみた。

f:id:shinnonno:20181218030223j:plain

 引用:https://abenolife.exblog.jp/9619347/

それは編集会議という雑誌に森見登美彦特集があった際、中村佑介がその表紙を務めたイラストについて。

そこには「太陽の塔」「きつね」「竹林」「叡山電車」「夜を歩く乙女」…とにかく、森見小説に登場するあらゆる要素が詰め込まれたイラストであった。

ちなみに中村佑介が表紙を手がけている森見小説は「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話大系」の二編のみだ。

中村先生曰く、「森見先生の小説が好きな人って、世界観のつながりとかを大事にすると思うんだよね。作品同士の繋がりとか、登場人物の関係とか、それら全部が作り上げて、つながっている世界観みたいなものを書こうとしたんだよね」

ちなみに、「他の人が描いてる森見さんの小説の表紙見て『もっと描くことあるのにな~』って思う」とも言っていたけれど、中村先生の話はまた次の機会に。

 

確かに、森見小説は京都を舞台にそれぞれの物語に共通点がみられる。奇怪な詭弁論部という集団の存在、図書館警察、李白と名乗る老人…

「熱帯」には芳蓮堂という骨董品店が登場するが、これは「きつねのはなし」で主人公がアルバイトをしていた店である。

一章のように森見氏自身が語り手となっている物語は「美女と竹林」という本が、三章のような手紙のフォーマットで小説に仕立て上げている物語は「恋文の技術」という本があったり、時にはそのような形式的な共通点もみられる。

 

別にそれを考察しようとかいうのも無粋だと思うけど、それでも物語同士のつながりを感じるのは読んでいて面白い。「熱帯」で語られている「千一夜物語」でも、違った語り口で似たような物語が登場していたり、シャハラザードと同じように、物語を紡ぐことで死刑を逃れる男の話が出てきたりする。

 

夜は短し歩けよ乙女」には、古本市の神と呼ばれる人物が登場する。彼は古本市に出店されている本を次々と指差しながら、その小説と、作者の歴史と、それに関連する別の本を次々と紡ぎ合わせて、本同士には繋がりがあることを乙女に(あるいは読者に)教えた。

 

きっとそのような繋がりを面白いと感じたからこそ森見氏は「千一夜物語」を題材に小説を書こうと思ったのだと思う。そしてそれは森見氏の作品群自体にも現れている。森見氏の「熱帯」という物語からは氏の小説への楽しみが詰まっているようでとても興味深い。

そして「熱帯」には、その本に囚われた人々が、自分の生きている世界と本との繋がりを身に感じていく姿が描かれている。

 

それは私も大いに同意するところで、例えばこのブログはアニメと音楽の繋がりからコンテンツを楽しもうという思惑で成り立っている。物語は物語のみで成り立つものではなく、時に他の物語だったり、社会情勢だったり音楽だったり色々なものとつながっている。

 

森見ワールドは広く深く、しかもそれは文学だけでなく更に広い海へつながっているんだなあと、怠惰な大学生ながらに感じた出来事でした。最後に「熱帯」の感想をちょっとだけ。

正直めちゃめちゃおもしろい作品でした。むしろ、「四畳半神話大系」や「夜は短し歩けよ乙女」などがしっくり来なかった方にこそおすすめできる作品かもしれない。

色んな人に読んでもらいたい作品です。こう言ったら何だけど、電子書籍じゃなく紙の本で買えばよかった。そしたら人に貸せたのに…。

 

ちなみに、森見氏が今作を執筆するに至ったきっかけとなる、「熱帯 著:佐山尚一」が気になる方は、Amazonで購入してみてはいかがでしょうか?くれぐれも、森見氏の「熱帯」を読んだあとに。

熱帯

熱帯